あの時のキス

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「どうですか。記憶は戻りましたか?。」女性が期待を込めて声をかけてきた。 「だめ。何も思い出せないわ。」私はそう返事をした。 女性はため息をついた。 「そうですか。ちょっと休憩しましょうか。あんまり長い時間やっていてもあれですし。」 私はわかりましたと返事をし、部屋を出る。記憶を失ってもう一ヶ月たっていた。 私が今現在覚えているのは、一ヶ月前に病院で目を覚ましたところまでだ。 医者から聞いた話だと道で倒れていたところを運ばれてきたらしい。おそらく何らかの出来事が道で襲われたか何かで頭を打ち記憶を失ったと考えられた。 目を覚ましたら自分のことは何も思い出せなかった。 しかし、ただ一つだけ思い出せる、今も忘れられない朧げな記憶があった。 それはドラマや物語みたいと言われるかもしれないが記憶を失う直前に、誰かとキスをしていたような記憶が確かに私の中にあった。 私がそれを話すと警察は発見者や周囲にいた人達に被害者の私が誰かと一緒に居なかったというような聞き込みをしていた。 だがどこかでキスのことが漏れたのか、どんどん話は広まり、マスコミにも取り上げられ、私のことは世間に広まっていった。 世間では王子様と口づけをして逆に眠ってしまった、逆白雪姫と悲劇のヒロインのように言われていた。 そして私の記憶が戻っていないことを知ると、私の記憶を思い出させるためにもう一度キスをすれば記憶が戻るんじゃないのかというようなことを言う人も出てきた。 中にはその話を真に受け、昔何かくだらない実験で使った、様々な人のキスの感触を再現出来るマシンを使って検証しようという人が現れた。 私は最初、そんな話は人をバカにしてると思い受けなかったが、しばらくしても記憶は戻らず最後の手段としてこの話を受けた。 検証をする前はバカにしていたが実際、このマシンは私の想像を遥かに超えた凄さをもっていた。データさえ入れれば、私が子供の頃にお父さんとキスした感覚からあの9割9分の女性が羨む有名俳優とキスした感覚も再現出来るらしい。 私は開発者の女性に多少引きながら検証を繰り返し行っていた。 だがやはり記憶は戻らず、肩を多少落としながら違う空気を吸うために外に出た。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!