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外に出て深呼吸をして肺の中の空気を全て入れ替えると私は地面に座り込んだ。
しばらく座っていると、私の前に一匹の犬がやってきた。
犬は私の前に立ち止まると何か欲しいのか舌を出してヘッ、ヘッ、と私にねだった。
私はポケットにクッキーを入れてたのを思い出し、クッキーを一枚手のひらにのせた。
犬はクッキーをのせた手に近づき、一口で口の中に入れた。
口に入れるとすぐに食べてしまい、また同じように舌を出しもう一枚私にクッキーをねだった。
その様子を見て少し笑いながらもう一枚クッキーを手のひらにのせた。
クッキーを手にのせて犬に食べさせようとした時、私は不意に思いクッキーを手から口に咥えて犬の方に顔を出した。
犬もクッキーに向かって口を突き出すと、犬の口が私の唇に触れた瞬間、先ほどとは違い「バウッ」と吠えながらクッキーをひったくっていき走り去って行った。
私は驚いて「ひゃっ」と声を出して倒れ頭を打ちそうになった。
私はこの唇の感覚に覚えがある気がした。そう感じた瞬間、私の頭の中に失っていた記憶が枷を外された獣のように入ってきた。
そうだ。あの日も私は同じようにふざけて道で出会った犬に口にクッキーを咥えて犬に餌を与えようとした。その時、犬に先ほどと同じように餌を取られた瞬間、吠えられた。それに驚いて頭を壁に打ったんだった。
キスの感覚があのマシンでは再現出来るはずがなかった。
「そろそろまた始めますよー。」大きな声で後ろから女性の声が聞こえた。
「はい。今行きます。」
さて記憶と頭をフル稼働して考えなければ。全ての人が納得するキスのことを。
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