それは突然かわりはじめる。

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それは突然かわりはじめる。

「大阪平野は昔、海やったらしいで。温暖化が進んだらまた海になるかもしれん」 「うち、津波きたら市内の地下が全滅するって聞いたことある」  クラスメイトのおしゃべりが気になりはしたが、席を立ち廊下へ出た。 「ほんまかなあ」  思わずつぶやく。  教室はまるで冷蔵庫で、休み時間のたび冷え切った二の腕をさすりながら逃げだした。軽い身震いの後でざわめきが全身に満ちていく。不快間近の快感がある。徐々に感覚を取り戻していく。  後ろで束ねた長い髪に触れると、冷たかった。  長い廊下には規則正しく窓ガラスが並んでいる。同じ間隔、同じ大きさ、同じ色、教室もルールに忠実だった。学校は、息苦しいほどに几帳面だ。ため息をついて窓際に寄った。  いつも、この窓から外を見る。 『翼があったら抜け出せるんやろか』  窓枠に小さな落書きが刻み込まれていた。カッターで彫ったのかぎこちない文字だ。見るたびに、ため息がこぼれた。  たとえここからはばたいても、どこにも自由はなかった。私は私という呪縛からは、逃げられない。  南側の理科棟が見えるだけで、二階からの眺めは窮屈だった。長方形の校舎の向こうに膨れあがった雲がある。空があまりにも青い。  埃っぽいレールに手を置いた。腕に体重をのせていく。レールがてのひらに食い込む。さらに腕に力をこめると足が浮いた。  体を倒して、窓の外へ身を乗り出し、ヤジロベエの気分で揺れてみた。手のひらの痛みが強くなる。  生ぬるい風になびいた髪が頬に触れた。くすぐったくて、目を細めた。  真正面に見える化学室から、授業を終えた生徒が出てきた。実験が長引いたのかもしれない。真下を見ると、花壇にだれかが咲かせた向日葵が並んでいた。 「落ちんで」  声と同時に左腕をひかれた。
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