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奏ちゃんの顔を拭いてあげたがったが、私の手の方が汚れている。
「化膿したらあかんし、手当てしよう。道具は家から持ってきた」
私は頷いた。
「どこをどんだけ怪我したら、こんな出血になるん? 心臓が止まるかと思った」
私は、痛む左手首を手のひらで隠した。
奏ちゃんは立ち上がると、机の上にあるカッターを手に取った。出しっ放しになっていた刃をしまった。
「りこ、怪我って……」
「ごめんなさい」
奏ちゃんは何も言わなかった。支えられながら洗面所へ行って、傷口を洗われた。痛かったけれど、黙って我慢をした。手のひらに付いた血が、水に流されていく。排水口に吸い込まれていく血の色を見て改めて恐怖を感じた。
手首に、大きなシリコン製の絆創膏を貼られた。奏ちゃんはそこで大きなため息をついた。
「病院へは明日行こう。手も動くみたいやから神経は大丈夫そうやし」
黙って頷く。
「奏ちゃん、お、怒っとる?」
「怒ってへん。無力すぎて、情けないだけや」
表情はかなり暗かった。
「俺、顔洗ってくるし、その間に着替えたらどうや」
自分の血だらけのブラウスを見て、頷いた。
ドアの方へ数歩だけ向かって、すぐに戻ってきた。机の上のカッターを手に持って、また、ドアの方へ歩き始めた。
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