藍 深紅 ……

4/5
前へ
/147ページ
次へ
 顔をあげた。真っ直ぐ私をみている。  奏ちゃんの頬に両手で触れた。それから唇に、唇を押しつけた。  目も合わせられずに、そのまま奏ちゃんの肩に顔を押しつけた。溢れる想いを、言葉にはできなかった。それでも伝わったと思う。受け入れてくれるはずはないとわかっていても、押し殺し続けるのは限界だった。  奏ちゃんが呼吸するたび、胸元が動くのが伝わってくる。ゆっくりと深く呼吸を繰り返している。  お互いに、しばらく動かなかった。  私の背中に右手を回して、軽くたたいた。どうしたらよいかわからずに、じっとしていた。 「俺は」  奏ちゃんが両腕で私を引き寄せた。 「りこを失わないためやったら、何でもできんで」  胸に顔を埋めたまま頷く。目を開けると、私の涙が奏ちゃんのTシャツにしみこんでいた。大きな手で優しく頭を撫でてくれた。奏ちゃんが私に頬を寄せる。 「りこより大事なものなんて、この世に存在しいひんのやから」      その声はとても近くて、私を廻る血液のすべてに波紋を広げていく。  目を閉じて、もう一度頷く。 優しい香りに包まれ、穏やかに満たされていく。私は確かに守られている。  恋してはいけない人。  それならば、奏ちゃんに抱くこの感情に名前はいらない。      
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

730人が本棚に入れています
本棚に追加