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母が出てそれほどたたずに奏ちゃんが来た。あれから毎日会いに来てくれている。奏ちゃんも、もう私が馬鹿なことをしないとは思ってくれているようで、終電前には帰っていき、そして、大学での用事がすんだら、直接、うちへ来ていた。
母から、もう連絡がいっていたらしく、最初に「迎えに来たで」と言われた。
「ひとまず、着替えと勉強道具だけ運んだらええやろ?」
私が段ボールに物をつめているとそう言われた。
「それは、用意しとるよ」
「じゃあ、もう出るで」
慌ててバッグを取りに行く。奏ちゃんは私の後を着いてくる。ボストンバッグを見つけると、すぐに拾い上げた。
「早く帰って、なんか食べよ」
奏ちゃんは前にもまして私の世話をしてくれるようになった。食事はきっちり栄養バランスのとれたものを用意してくれる。
私は、奏ちゃんの顔をまともに見られなくなっていた。
目が合うとすぐにそらしてしまう。
奏ちゃんは、そのことについて何も言わない。マンションを出ると、まず日差しの強さに驚いた。ほんの数日こもっただけなのに、まぶしくて目を開けていられない。目眩がして立ち止まった。
「大丈夫か?」
心配して、奏ちゃんは声をかけてくれた。
「まぶしくて驚いただけ」
「歩けるか?」
頷いた。
「急かしてごめんな。日が落ちてからにしようか?」
「大丈夫」
自分で思っているよりは、弱っていたようだ。
学校の時間割をみて、下校になる前に移動している。
電車は空いている。
「新学期まで休むって、姉貴が学校に連絡したらしいで」
「そうなんや」
「りこ、学校であったこと言うてくれへんかったやろ」
トオルとユイカの事だろう。
私は奏ちゃんに謝った。
「ええんやけど」
奏ちゃんは、かわらず優しい。それなのに、ほんの少しぎこちない気がする。私の方に問題があるのかもしれない。
奏ちゃんと暮らせる。嬉しいはずなのに、不安だった。
「りこ、携帯繋がらへんままやで」
携帯電話は、ずっと電源を落としていた。トオルから連絡が来るかもしれない。そう思うと、憂鬱だった。
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