とり

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あの会社員は、見事願いを叶えられ鳥に生まれ変わった。 カラスである。 漆黒の羽を持ちカァカァと鳴くカラスである。 カラスは大空を羽ばたいた。 風を一身に受け、目一杯翼を伸ばして空を飛び回った。 だが決して自由ではなかった。 カラス同士の縄張り争い、 餌場の奪い合い、 猫、 カラスは電線に止まり、じっと人間を見下ろして考えていた。 この世は何て生きにくいんだと。 そして見下ろす人間達は何故、そうも毎日楽しそうなのだろうか、と。 飢えもなく、縄張り争いもなく、弱者でものたれ死ぬことなく生きていられる。 暑い日も寒い日も涼しく温かく雨風を凌げる家がある。 この世界において無尽蔵に近い数が居る。 どんな他の動物も敵わないような数。 カラスは人間になりたいと願った。 あんなに愉快そうで幸福な生き物になりたいと。 腕を振り、どこまでも歩いてみたい。 家と言うものに帰ってみたい。 飢えぬ日々を過ごしたい。 カラスは次に生まれ変わったなら人間になりたいと願った。 その後、カラスはその短い一生をカラスとして全うし、死んだので、 兼ねてからカラスの願いを聞いていた神様は、溜め息をひとつこぼし、それを叶えることにした。 カラスとしての一生を全うしたご褒美である。 カラスは、人間に生まれ変わった。     
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