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01.出逢い
朝から雨がしとしと降っている。
低気圧のせいかなんだか、頭も身体も重くてだるい。雨の日は昔からあまり好きではない。
雨がぽつぽつ降り注ぐ音が、癒やしだというやつもいるが、正直鬱陶しいと感じる。湿気で髪がうねるのも嫌だし、濡れて服が身体にまとわりついてくる感触も嫌だ。
「桂木さん、最近ずっと雨降りですけど調子は大丈夫ですか? 仕事のほうは」
「ああ、大丈夫です。ちゃんと間に合わせます」
「そうですか。じゃあ、よろしく頼みますね」
「はい」
自分は雨がひどく嫌いだ――しかしだからと言って、出かけずにずっと引きこもっているわけにもいかない。なにかしら用事というものはあるのだ。
いまから向かわなくてはならないのは、歩いて二十分の駅前のレンタルビデオ店。
借りたDVDを返しに行かなければ、延滞料を取られてしまう。ここで無精をして遅らせても、明日もその次の日も天気は雨マークで、延滞料がかさむばかりというわけだ。
携帯電話を手放し、気が重い中、しぶしぶ出かける準備をする。
肩先まである髪は、広がるのが嫌なので後ろで結わえた。
身につけるものにはこだわらないので、白い長袖のカットソーに黒のデニム、DVDが入るほどの小ぶりなショルダーバッグを斜めがけにする。
足元は濡れることも考慮して、合皮のショートブーツを選んだ。
最後に忘れず、ノイズキャンセリングのイヤフォンを耳に押し込み、音楽プレイヤーを再生させる。
一通りの準備が整うと、いよいよ出かけなくてはいけない。部屋の窓から見えた外は、夕方ということもあり薄暗く、だいぶ雨脚が強いように思えた。
気分はとてつもなく最悪だ。
鏡に映った自分を見れば、眉間にしわが寄って表情が険しくなっていた。雨の重苦しさのせいで、肌が白を通り越して青白く見える。
口を引き結んだその顔は不機嫌そのもので、まるでヒステリーを起こしそうな女のようだ。
ため息交じりに、玄関の傘立てにさした透明のビニール傘を手に取ると、重い足取りで部屋をあとにする。
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