01.出逢い

2/4
720人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
 いま住んでいる部屋は、寝室一間にリビングダイニング、キッチンと広いのがとても魅力的だった。しかし駅まで行くのに少々時間がかかるのが難点だった。  こんな雨の日ならば、なおさら億劫になるというもの。  晴れた日は自転車が使えるけれど、雨降りではそれができないから嫌なのだ。三年ほど住んでいるが、次の更新はどうしようかなと、そんな考えが頭をよぎる。  しかしいまの広さに慣れてしまったのだから、狭い部屋に越すのは無理があるだろう。  駅から近くて広いマンションは、家賃がかなり跳ね上がってしまう。小さく唸って考えてみるが、やはりこのままがいいのだろう、と言う結論に達した。  雨さえ降らなければ、それほど苦ではない。そこまで考えてやはり雨は嫌いだなと思った。  雨が降らないと、困る人たちがいるのも重々承知している。時々降るのなら、まだ我慢はできるかもしれない。けれどそれが毎日となるとうんざりするのだ。  雨が降ってはしゃぐのは、子供くらいのものではないか。通り過ぎる親子連れを見ながら、小さくため息をついた。水たまりに入って喜ぶなんてこと、自分の子供の頃にあっただろうか。  しかし幼い頃はここまで、雨が嫌いではなかったような気もした。いつからこんなに雨が嫌いになったんだろう。 「なんだったかな、思い出せないな」  考えてみるとなんだか喉まで出かかるが、そこから先が出てこない。  忘れているということは、大した理由ではないのだろうか。まあ、無理に思い出す必要もないかと、雨の中を足早に歩いた。  駅までの道は、大通りを歩けばわかりやすいのだが、携帯電話の経路案内アプリで導き出された、最短コースを歩いて行く。  進む道は裏道や小道ばかりで、道を知らないものだと通り抜けられるのか、不安になりそうな場所もある。  この辺りは住宅が密集していて、その家々の脇道が近道となる。抜け道の一つには公園も含まれており、そこを抜けていくと駅まではあとわずかだ。  遊具がいくつかと、砂場がある程度の小さな公園。日中は近所の主婦らが集まって、子供を遊ばせているのを見かける。  しかし今日は朝から雨降りなので、誰もいないだろう。そう思いながらいつものように、その公園を通り抜けようと足を踏み入れる。  だが入り口から数歩、中へ入ったところで足が止まった。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!