バスカビル・クリニック

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 「その夢は、早急に改善しないと命に関わりますね」  夢診察を終えたバスカビル・クリニックの精神科医"北真倉涼子(きたまくら りょうこ)"は神妙な顔でそう告げた。 診察を依頼した日々谷将太の夢診断には「巨大な蜘蛛に食べられてしまう」と出たのだ。 蜘蛛は夢診断では、良くないことの象徴と言われているが、戦って退治したなら困難を乗り越えるとか良い意味になるが、逆に食べられる夢は困難に飲み込まれる悪い意味になる。 蜘蛛のサイズは、降りかかる困難の規模を示唆するとも言われている。 結果から、日々谷はとてつもなく強大な災いに抵抗出来ずに殺されると言うことになる。  「そんな、僕はどうすれば良いんですか?」  「方法は一つだけありますが、あなたは覚悟をしなければない」  涼子は夢診断の二つ目の項目に目をやる。そこには「蜘蛛の腹の中から助けを求めるが、誰にも声は届いていない」とあった。  誰にも助けられないのだ。  「覚悟?」  うつむきながら忠告する涼子に、日々谷はごくりと唾を飲み込んだ。  「あなたは、あなたの精神を蝕んでいる悪霊と一人で闘う覚悟を強く持つのです」  「今、悪霊って言いました?」  まさか悪霊に取り憑かれていたなんて、思いもしなかった日々谷は大きな声をあげた。  「ええ、夢診断には"急に膨らんだお腹が破裂したが、誰にも助けては貰えないどころか、病院に辿り着くことすら叶わなかった"夢も見たと回答下さいましたね。これは、あなたが抱えているストレスは計り知れない量であることを意味します」  「冗談じゃないっ!」  そう言えば、その夢を見た時は本当に腹が裂けたと思いこんで、起きた時に腹を押さえていたのを思い出したが、それも悪霊の仕業だと思うと日々谷はいっそう恐ろしくなった。  「そもそも、夢が夢であることなんて自覚出来ないし、夢を自分でコントロールするなんて無理ですよ」  「しょうがないですね、こう言う話を聞いたことはありますか? "寝ごとに返事をしてはいけない"」
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