バスカビル・クリニック

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 「確か、夢と現実の区別がつかなくなるとか」  有名な都市伝説ゆえ、日々谷も聞いたことはあった。  「それは全くのデタラメです。ひとは寝ている間は思考はストップしますが、感覚だけは起きています。だから現実の物音が夢の中でも聞こえるんてますよ」  涼子は苦笑しながらやれやれと言った感じで首を横に振る。  「そうなんですか、僕が悪夢と闘うことには繋がらないような」  「現実のわたしと、夢の中のあなたでコンタクトをとるんです。あなたはわたしの指示に従って下さい」  「はぁ。何かSF映画みたいな話しですが、僕は夢の中の自分をコントロール出来るんでしょうか?」  「読み聞かせは、英語で"ベッドタイム・ストーリー"と言われます。目的はお子様に就寝時、質の良い夢を見させる為なんです。就寝前のメンタルの在りかたが見る夢に影響を与える。更にはその夢が翌日のメンタルを左右するんです」  「悪い夢を見た翌日は気分悪いけど、良い夢を見た翌日はスッキリしているのはそう言うことですか」  「わたしの見識では、脳は人体の一部ならその中のシナプスによる電気信号のやりとりは、手足を動かすことと変わりありません。あなたが本気で悪霊を祓いたいと思えば、治療時間は短くなるでしょう」  「思わなければ?」  「最悪の場合、悪夢死するかも知れません。だからわたしは、命に関わると言ったんです!」  海外では、悪夢に殺されると言う事例が実在する。これは後に「エルム街の悪夢」と言う高名なホラー映画の元ネタとなった。  「嘘だろ? そんな」  「悪夢死する前に、対処しましょう。日々谷さんはこのお薬を服用して下さい」  涼子はディスクの引き出しから、幾つか錠剤が入ったビニールの袋を取り出すと、補聴器のようなものも同時に出した。  「精神安定剤と、睡眠導入剤です。それからこれは現実のわたしの声を拡張する機械です。治療中は何があっても絶対に外さないように」  「外したら?」  「あなたはここに帰ってこれなくなります」
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