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深緑の単衣を身にまとった化け猫というあやかしは名に相応しく人間に化けている。赤みのかかった黒色の双眼は猫のように瞳孔が縦長でくりくりしているため、愛らしさと冷たさを感じる。ふわふわの赤茶色の髪は無造作に項を覆い、鬣のようだ。
十四五の美少年に化けたあやかし、茶々丸は口角を上げ淡々と告げる。
「花札で牡丹が勝ったら、話を聞くにゃ」
和服の少女、牡丹と視線を交わし、眠たげな目で寂凰院の跡取りという少年を見据える。少年は唐突な申し出に不快しか感じられず、即答で拒否した。
「勝手に決めるな。俺はやらない」
腕を組み、近くにあった木柱にもたれかかる。何を言おうが意見は変えない雰囲気を醸し出すが、少女の口からは予想外な挑発が零れる。
「そうですよ、茶々丸。花札で勝負だなんて必然的に私の話を聞いてもらうことになります」
清々しいほどに悪びれは一切ない。そのクールな態度で豪語された少年の眉がぴくりと動き、口元は面白くない、とへの字に曲がっている。
「…へぇー、負ける気がしないんだ」
「はい。申し訳ないですが、こいこいの嵐をお見舞いすることになります」
寸分狂うことなく返され、少年の口角がぐっと上がる。
「いい度胸だ。けど俺には何のメリットもない」
「んー、そう言われてしまうと…そうですね」
少女が真剣に思い悩むのを少年はじっと探るような目で見つめた。彼女があまりに、真っ直ぐで疑いたくなってしまうのだ。何か裏があるのでは、化けの皮をはがした姿はどんな異形なのか。そんな想像を働かせていると不意に茶々丸が鼻で笑った。
「恥をかかされるから受けたくないだけなのにゃ。牡丹、気にするにゃ」
目を瞑り天を仰ぐ茶々丸は少年に目もくれず遠回しに嘲笑ってみえた。明らかな挑発だ。けれどそれにまんまとのってしまう少年は苦虫を噛み潰したような顔つきになる。
「この猫は…」
「茶々丸様と呼べと言ったにゃ」
から笑いを繰り返す茶々丸。その傍らで突然少女が両手をうった。
「あ!こうしましょう!私に勝ったら人避けを解きます。あとお寺のお仕事も手伝います!どうですか?」
「あんまメリットに思えないけど…。まぁ受けるよ。俺は負けず嫌いなんでね」
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