少女、化け猫、こいこい

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「と言いますと?」 「俺には二つ上の兄がいる。本当は兄貴が跡取りになるはずだったんだ。それを俺に、役目まで押し付けてあの野郎…」  牡丹はすぐさまその苦衷を察した。そのため何も言えず、しかし視線は逸らさずその横顔を見つめた。  そんな牡丹を見て茶々丸は左次真(さしま)の言う兄貴にあたる人物について補足した。 「瑞真のことだにゃ」  左次真がぎょっとし、牡丹は目を丸くして茶々丸を凝視した。 「え…瑞真さん!?瑞真さんって人間ですの?私…てっきりあの人はあやかしだと思っておりました」 「ちょっと待て。どうして兄貴を知ってる。しかもその言い草だと俺の知らない兄貴を知っていて、俺の知る兄貴を知らないみたいだ」  両者は明らかに困惑していた。  牡丹は知人である男の正体は実はあやかしではなく人間で、今目の前にいる左次真の兄にあたる人物であったことが俄に信じられない様子で口元に手を当て、何か思惑するように眉をひそめた。  左次真はというと、そんな牡丹から突発的に出た、兄のあやかし説に度肝を抜かれ、しかしそんなことは有り得ないと思い立った。  が、彼女は何らかの繋がりで兄を知っており、恐らくそれは自分の知らない兄であると見てとった。なぜなら、彼女は兄と同じく、自分とは違う、〝あちら側の人間〟なのだから。  それまで微動だにせず丸まっていた茶々丸が四足歩行で両者の間を緩やかに歩く。そして怪訝な表情を浮かべる左次真を好戦的な目で見上げた。 「ほぉ、見事な推察にゃ。まぐれとはいえ、褒めてやるにゃ」  牡丹と膝の上に乗らず、前を陣取った茶々丸は、前足を合わせ腰を下ろした。茶々丸の体型からして細身の少女の膝に乗るのは困難であるから賢明な判断だ。 「瑞真さんの弟さんが左次真だったなんて。今度会ったらいろいろ教えてもらいましょ」  思惑する態度を止め、左次真に向き直った牡丹が顔を上げるとすぐ、対峙してた張本人と視線がぶつかった。その間に鎮座する茶々丸は横には広いが、身長は比例してないため二人の視線を妨げることはなかった。  彼はいやに真剣な眼差しで問いかけてくる。さっきまで目も合わせようとしなかったというのに。  牡丹は顔色一つ変えず、心の中で苦笑した。 (彼は兄である瑞真さんを慕い、未だ頼っている。これはまだまだ住職にはなれませんね)
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