少女、化け猫、こいこい

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 心の内で苦笑されているとも知らず、左次真(さしま)は率直な疑問を口にした。 「兄貴の居場所しってるのか?」 「はい。でも今すぐには会えません」  牡丹は意地の悪い、しかし彼女のもつ優しい笑みを浮かべて爽やかに即答した。ぴくっと左次真の眉がそれに反応し、ぶっきらぼうに納得のいく説明を求めた。 「どうして」  しかし答えたのは少女ではなく、化け猫だった。 「会いたいにゃら牡丹の言うことを聞くことにゃ童。それがお前のためににゃる」 「詳しくは教えてもらえないのか」 「そうですね。お試し期間って感じです。あなたが知る価値のある者なら、秘密を明かすことができます」  次に答えたのは少女だった。暫し思惑顔を浮かべ、やがて爽やかな笑みで返した。  提案を受けた左次真はじとっと少女の屈託のない笑みを見つめ、淀みのない言葉を思い返し、やがてため息をついた。彼女の言いたいことが分かった気がしたからだ。 「そっち側の人間になれるか、って話か」 「渋っていつまでもそちら側にいるからですよ」  またしても淀みのない声に、左次真はムッとなり顔を(しか)めた。 「む。あんたの言葉は濁りがなくて真っ直ぐな分刺さるな」 「そうですか?左次真は今地に足が着いていない状態。だから、そう感じるのかもしれません」  嫌味のない素直な言葉だ。加えて心地よい鈴を転がしたような声色に影響され、左次真の口が軽くなり、すらすらと心の内を伝えていく。 「それもあるけど、あんたは目的に向かって真っ直ぐだ。強い思いを感じる。だからって訳じゃないけど、力を貸したい。もちろん、俺の為でもあるしな」  言い終わり、ハッとして彼女を見たが、それが返って良くなかった。彼女の子どものように無邪気に喜ぶ姿を直に見ることとなり、彼にはそれが限りなく眩しく、自分の存在持続の危機を覚えるほど顔が引きつった。まるで日光を浴びて消滅しつつあるヴァンパイアの気分を味わっているかのようだ。  左次真とは対称的な表情で牡丹は感激と感謝を口にする。 「左次真…!ありがとう!」 「っ…」  それが彼には止めの一撃となり、言葉を詰まらせたのは幸いと言って良いだろう。もしも口から何か漏れるものがあったとすればそれは、彼の魂、はたまた気力だったかもしれないのだから。
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