71人が本棚に入れています
本棚に追加
上機嫌で庭を眺め始めた彼女をよそに、左次真は平静を取り戻すため深呼吸を繰り返した。茶々丸が大欠伸してそれを見ていたことも気づかないほど動揺しているらしい。
やがて庭へ足を踏み入れた彼女に左次真は問いかけた。
「具体的に何をするか決まってんのか?」
「いいえ!」
弾んだ声で返された。予想外の返答と様子に、質問をした本人は絶句してしまう。表情が固まり、信じられないものを見る目で少女を見下ろした。
「は?決まって、ない?」
「はい!」
「まじかよ…」
庭に降り立った茶々丸がでんでん虫を見つけ、何やら奮闘してる中、少年少女は対称的な表情で視線を交わしている。
有頂天の彼女と、絶望に満ちる彼。
からっと乾いた風が通り抜け、濡れ縁近くに吊るされた風鈴を揺らし、侘しさを増す音色を伝えた。
そんな空間でただ一人、否一匹は夢中ででんでん虫に牙を立てていたが飽きてしまったのかふいっと尻尾を向け、少女の足に擦り寄った。そして取引のため見え見えに甘えてみせる。
「牡丹、僕の情報を提供してやってもいいにゃ。その代わりほれ、あれを」
しかし長い付き合いなのであろう。少女はそんなあざとい化け猫を煙たがり、ついでに毒を吐く。
「まーた茶々丸はー。それ以上太っても知りませんからね」
ぴんっ!茶々丸の特徴的な大きな耳が立ち、顔つきはぎょっとしている。少女の吐いた毒は効果てきめんで即効性があるらしく、化け猫はあたふたし始めた。
「にゃっ!にゃにゃにゃ…」
前足で執拗に頭や顔を撫でている。恐らく穴があったら入りたい気分だがそれができないため、せめて顔を隠したいのだろう。しかし素直に前足で顔を覆うか、顔を背ければいい話だ。そうしないのは化け猫でも気にしてることがあるからなのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!