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そのまま門まで二人と一匹は取り留めて会話もせず、沈みかけの夕日が一筋の光を放つ先を見つめた。
「明日な、牡丹」
敷居を跨いだ「また」牡丹に投げかけた明日の約束。
「はい!よろしくお願いします!」
彼女は満面の笑みでそれに応じ、絶対だよと念を押した。
妙な珍客を見送った左次真は、人差し指を立て、その指先からぼうっと立ち込める青白い炎で宙に円を描いた。すっ…と人差し指をしまうとその円は寂凰院の境内を覆い、光の破片となって降り注いだ。
牡丹と名乗った少女の結界が解かれ、寺には青白い炎が人魂のようにあちこちに点在している。
「この寺に伝わる摩訶不思議な話。だけど今の俺じゃ、それを確かめることはできない。そもそも本当かどうかも分からない」
独り言を呟く左次真の瞳には、幻想的な面持ちを見せる寂凰院が写っている。人間がこの寺を見つけることはできなくても、あやかしには人目でみつけることができるその風貌が。
「…牡丹に、かけてみるか」
寂凰院の境内に入った左次真の肌を、冷たい風が撫で上げ、まるで意思を持ってるかのように境内をかけていった。
祇園祭が始まる二週間前。人間とあやかしの祭り、密久箕祭が行われる七月中旬まで、あとひと月。左次真と牡丹はそれぞれの思惑を胸に、京の町へ繰り出す。
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