河童は神童にはなれぬ

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 (かみ)賀茂(がも)神社と下鴨(しもがも)神社の例祭として、平安時代から行われている葵祭が終わり、京の町は祇園祭に向けて活気に勢いがついている。  鴨川、四条大橋手前。  〝すずりてい〟と白くなぞられた赤い暖簾(のれん)。木造一階建ての平屋。その前に立てられた旗には、〝かきごおり〟と記されている。  暖簾をくぐって右手側を見れば、奥の窓際に腰を下ろす少女の姿が。紺色のお団子頭には水無月の花の(かんざし)が飾られている。  四人がけのテーブルに少女だけが座っている。人ならざる者が見えないものには、こう見えている。しかし、実際には少女の左横、窓際の席に外を見つめるもふもふの猫の姿があった。  時刻は午前九時半を過ぎて間もない頃だった。少女の名は、風音(かざね)牡丹(ぼたん)。紺色の結い上げられた髪。光に照らされた水面のように美しい青い瞳。檸檬(れもん)色の小袖には蓮の花が散りばめられて、純白の帯できゅっとしめ、彼女の凛々しさを引き立てている。  彼女の前には先程注文した、すずりていの名物、抹茶と本わらび餅のセットが置かれている。待ち人が来るまでの間に堪能しようとしているところだ。  彼女の待ち人というのは、先日知り合ったばかりの年頃の男である。こんな言い方をすると知り合ったばかりの男とこれからデートなのではと想像してしまうが、両者の目的は他にあった。  恋情とは程遠い、人探しならぬ、あやかし探しだ。  約束の時刻、五分前になった頃、少女の待ち人は颯爽と現れた。 「よぉ」
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