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「おはようございます、左次真。来てくれたんですね」
少女の前に腰を下ろした少年の名は、大鳳左次真。京都の山奥、八坂神社よりも東に鎮座する、人を寄せ付けない寺、寂凰院の跡取りだ。
彼女たちはその寂凰院で出会い、その寺に纏わる伝説を知っていること以外に共通点はない。あるとすれば、両者共に人ならざる者が見える普通の人間でないこと。少女の傍らに当たり前のように座す化け猫が、人ならざる者、あやかしである。
かつて寂凰院で行われていたという、人間とあやかしの祇園祭の前夜祭、密久箕祭を復活させるため、牡丹は左次真と化け猫、茶々丸を連れて役者である河童を探しに鴨川へとやってきたのだ。
一足先に甘味処の名物を堪能した牡丹は昨日出会ったばかりの少年をからかってみせる。本心は、彼が約束通りここに来てくれたのが、嬉しかったからで、それを素直に口にしたくながらったから。
「左次真はもしや犬のあやかしだったりして」
「忠実で素直って言いたいのか?それとも犬顔に見えるか?」
牡丹の本心を知らない左次真は再会して早々に弄られたと、不服げに顔を顰めた。そのやり取りを見ていた、それまで黙っていた者は堪らず腹を抱えて笑い出す。
「にゃーっはははっ、にゃははははは!」
化け猫の茶々丸は赤茶色のふさふさの毛並みを揺らし、椅子の上で転げ回った。そしてズべッ…と椅子から横倒れで落ちると、少しは頭が冷えたのか、ゆらりと起き上がり左次真を睨み上げた。
「この童は牡丹に媚びへつらう化け狐そっくりだにゃ」
「そりゃただの僻みで俺をその化け狐に投影させただけだろ」
「左次真のおっしゃる通りです。茶々丸は何かと敵対したがる質で、特に猫又のアメリとは犬猿の仲なんです」
短足で再び椅子の上に座した茶々丸を、牡丹は顎のあたりを指先でいじった。茶々丸はご機嫌な表情を浮かべている。
左次真は猫又の姿を想像し、アメリという名をどこかで聞いたような…と明後日方向を見て思案する。するとふてくされた茶々丸が牡丹に甘えつつカタコトにそのアメリという猫又を貶す。
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