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「ちょっと待てよ、兄貴!!」
焦燥に駆られた荒い声が、白銀のくせっ毛をかく一人の青年に向けられた。青年は背中に浴びるあらゆる罵倒をものともせず、やがて穏やかに実の弟を振り返った。そして、
「後は任せたよ、左次真」
優しい声音とは裏腹な意地の悪い笑みを返した。
「っ!!」
黒髪のくせっ毛な少年は見上げる実の兄がいつもより遠く感じられ一瞬言葉を詰まらせるも、自由奔放な行動、言動に煮えたぎる思いが重機関銃のごとく次から次へと止めどなくその勢いを保ち反論する。
けれどどんな言葉も飄々とした彼にはでこぴん程の威力もなく、ロングコートのポケットから出てきた手をひらひらとふられ、挙句背を向けられてしまう。
「兄貴!祭りはどうするんだよ!」
必死に呼び止める少年は悔しさをのせ再度呼びかける。
「兄貴じゃなきゃできねーんだろ!?」
「そんなことないさ。だから」
一旦区切り、青年は肩越しに振り返った。そして、流し目で少年を射抜き、告げる。
「後は任せたよ、左次真」
二度目のその台詞は、念押しだったのだろうか。その場に残された少年は、立ち去る兄を引き止める術が見当たらず、泣きたくなる気持ちを抑えるために唇をかんだ。
祇園祭が始まる一ヶ月前、寂凰院の跡取りであった兄、大鳳瑞真が勘当されてから二週間が経った今も、左次真は頼みを引き受けるか、悩んでいた。
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