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夜通し降り注いだ雨は日の出とともに上がり、雨に濡れた新緑がしっとりと煌めき、庭園を更に美しく風情のある面持ちに見せる。
観光都市、京都。近頃、御朱印巡りや季節の花目当てで寺社に訪れる人も多いこの町でも、人足が途絶えた寺も存在する。
京の都から遠く離れた山郷より更に深く、ここ、寂凰院は人目を避けて人を寄せ付けず静かに鎮座している。
かつて人間とあやかしが交流していたとされる由緒ある寺だ。けれどガイドブックは愚かネットにも案内所にさえ掲載されていない。その上看板も行き先を印したものも何一つない。極めつけは、立地だ。山奥に佇むこの寺を、知識も道しるべもなしにたどり着けるはずがない。
ここに訪れる者といえばそう、人ならざるもの、あやかしくらいのものだ。そのあやかしももう何百年と姿を見せてないらしい。
つまり、誰彼構わずここを訪れる者は皆無で寺としては存亡の危機ともいえる。
けれど今日は違った。珍しく参拝者が訪れたのだ。大事な大事な、客だ。
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