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くせっ毛な黒髪の少年はその大事な客、しかしここを訪れるだけあって変わり者の珍客を遠くから見つめていた。
やがて珍客が濡れ縁で腰を下ろし、眼前に広がる庭園を眺めたところで声をかけた。
「やけに人が少ないと思ったら、あんたの仕業か」
庭園を見つめる少女はくせっ毛の少年とそう歳が変わらない外見で、十代後半と見て取れる。頭のてっぺんでお団子にまとめた紺色の髪は何故か日に当たると深い青に見え、深海を思わせる吸い込まれる異質さを感じさせる。
そして何より、白を基調とした椿の模様が特徴的な紬を身に纏う彼女の傍らでくつろぐ猫の存在が、少年に訝しげな面持ちを見せるのだった。
白絹のようにふわふわとした毛並みに茶色の三本杉が彩る丸い背中、ピンッと立つ耳は鋭くしかしふわふわの毛並みに覆われ丸くも見える。一見猫に見えるが、その瞳は紅く、しっぽは己の体に負けじと存在感を放っている。
化け猫だ。
少年は一目見てそう思い、小さなため息をもらした。そしてこう続けようとする。
「物の怪と黄昏れる痛いけな少女とはまさに」
が、雅に振り返った彼女の涼やかな声に遮られる。
「猫が見えるんですね」
───しまった。数秒前の自分を叱咤したくなるももう過ぎたことだ。完全に同類と見られたと少年の頬がひきつる。
「………たまたまだ」
どうにかして濁そうとするも、彼女は最早気にも留めておらず、再び庭園へと視線を滑らせていた。その傍らで化け猫は丸くなったまま寝息を響かせている。
ここはペット禁止である。あやかしなどもってのほか。だというのにくつろいでる、人間とあやかしが肩を並べて。
面白くない、と言いたげな顔つきで少女の横顔を伺う少年は腕を組み、どうにかしてこの一人と一匹を追い出そうと思案する。
不意に、少女が少年を見上げた。
「ここは大昔、この時期になるとあやかしがお祭りの前夜祭のために集まった憩いの場だったそうです」
暫しの沈黙が落ちる。顔色一つ変えない少年だが、言葉に詰まっているのだろう。少女はそんな少年を探るような目で見つめている。やがてその視線に耐えかねた少年が早口で、そっぽを向きながら答えた。
「この寺のことはよく知らない」
「そうですか。でもそれだとおかしいですよね」
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