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「何が」
そっぽを向いていた少年が視線を少女へ滑らせると、それを避けるかのように少女は横顔を見せた。そして小首を傾げる。
「観光なら下調べくらいある程度します。興味がないのにここにいるということは、おかしいです。もしかして…」
最初こそ探るように言い聞かせていた言葉はやがて、ある結論に至り、彼女をハッとさせた。
しかし彼はこれ以上話を聞きたくないと、彼女より早く口を開いた。
「いいからこの人よけ解くからな」
「やっぱり!」
人魚スタイルで少年を見上げた少女の目は水面で煌めく光の欠片のようで、少年は反射的に身を引いた。
「な、なんだよ…」
「このお寺の人なんですね!だから人が来ないと困る、人よけを解きたい、そうですね!?」
少年の頬が引きつった。それを目ざとく発見した少女が安堵の表情をした。そこで少年は半ば諦めたように項垂れる。
「別に運営者でもないし、跡取りになるかも曖昧だ」
二週間前の出来事が脳裏を過ぎる。けれどすぐにかき消し、少女に向き直る。そして素朴な疑問を投げかけた。
「住職に用があんの?ていうか、あんた誰」
そこで少女はハッとし、慌てて頭を下げた。礼儀正しいというか律儀というか。
「申し遅れました。私、風音牡丹と申します。あなたに折り入ってお願いがっ」
「却下。あんたは俺がこの寺の者だから頼み事をしたいみたいだけど、生憎俺はこの寺とは無関係なんでね」
そういう面倒ごとはごめんだと言い終わる前に拒否した。当然あからさまに嫌がられ拒否された側はしょんぼりと肩を落とす。
「え…そうですか…」
「そうなんだ。というわけで俺は」
「あやかしが見えるのに、もったいないです」
真剣な瞳で告げられた。本心なのだろう。それが少年には気にくわなかった。だからだろう。黙って彼女を見据えている。少し、冷めた目で。
「あなたは見えるんですよね?彼等と関わりを持ったことないんですか?」
切実な訴えに聞こえた少年は堪らず反論しよう息を吸いこみ、静かに告げる。
「あやかしなんて」
否、告げようとしたところ何者かに阻まれたのだ。
「やめときにゃ、牡丹」
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