少女、化け猫、こいこい

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 それは人間の発する言葉なのだろうか。疑念を抱く原因である語尾の猫語とでもいうのだろうか、それが少年に怪訝な表情をさせている。  さらには化け猫、がいたはずの場所に鎮座する十四五の年頃の和装美少年が突如現れたのだ。そこで少年にある推測が浮かび上がる。 「まさか、お前化けれるのか?」  半信半疑で見定めるように眺める少年に目もくれず、美少年は静かに趣のある口調で語る。 「僕は化け猫の中でも最上級のあやかしにゃ。化けられて当然だにゃ」  しかし語尾の猫語が尊厳さを緩ませていることに少年は鼻で笑って見せた。 「つっても化けるだけが取得の猫様に変わりはねーな」  ぎらり。烈火に光る双眼が姿を現し、嘲笑う少年を鋭く捉えた。刹那、少年の前で粉塵が舞い、前髪は上昇気流でぶわっと乱れた。呆然とする少年に感覚が戻ったのは、前髪が落ち着き、重力に従った後だった。 「いっっっ!?いってー!何すんだこのっ」  少年の額には一筋のかすり傷が刻まれている。猫にひっかかれたかのような跡だ。化け猫は痛がる少年を一瞥し愉快に高笑いする。 「にゃーははは。童の分際で僕を貶すからにゃ」  凛々しい横顔を少年に睨まれても動じない美少年の頭を、少女は保護者のごとく静かに叱咤する。 「茶々丸。何てことするんですか」 「にゃっ!にゃぁ…」  赤茶色のふわふわな髪を撫で、茶々丸こと美少年はしゅん…と肩を丸めた。  立場的には少女の方が上なのだろうか。一見姉弟に見えるが、化け猫である美少年と人間と思われる少女がそのような関係であれば大問題である。仮に少女が物の怪の類であっても、両者に共通点は見られない。  礼儀正しい少女と、憎たらしさを持った化け猫は外見が全く異なる。髪の色、目の色、顔立ちと似た箇所は見当たらない。  少女に叱られた美少年は最初こそはしょぼくれていたものの、少女の視線が外れたところでぼそりと毒づいた。 「このくらいで傷を負わされるなんて、陰陽師の血を引く寂凰院(じゃくおういん)の跡取りが聞いて呆れるにゃー」  ハット弾かれるように少女が美少年を振り返った。叱られちまえ、と内心化け猫を嘲笑う少年。しかし少女の標的にされたのは、余裕をかましていた少年だった。
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