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「嫌だ、加奈っ! 病気が移るから早く捨てて!」
心の底から爬虫類は苦手だった。茫然としながら叫ぶ彩は、本気で怯えている。足元にはトカゲだらけ。しかも側道から森に続く道の、至る所に散乱している。フェンス越しの向こう側が特に酷い。
それに対する加奈。苦手なのは知っている。しかし、その脅える姿が面白くって仕方がないのかのような表情。
すすっと、右腕を差し出す。ちらちらと横目使いに彩を見る。反応を伺っている。そして、わざと見えるように手のひらを広げる。笑いながら加奈は言う。
「それ、お姉ちゃんの偏見じゃない? 爬虫類は病気なんか持ってないよ」
妹の加奈は小学六年生。明るくて無邪気。身長こそクラスメートの中では低めたが、活発という言葉がよく似合う。しかし、それ以上に怖いもの知らずなのが困ったところ。
そして姉の彩は中学二年。私服の加奈に対して学生服。当然だが学校が違う。たまたま帰り道に会った二人。一緒に下校するのは久しぶりだった。
彩は少し怒っていた。後ろから頭を、こつんと小突いてやりたい。そう思い無言で右手を振りかざす。しかし加奈は察していた。猫のようにしなやかな反応で避けられる。
「ちょ、やだ、ごめんね」
おどけたような物言いで謝る加奈。ぺろりと舌を出している。これには彩も収まらない。頬を膨らませ紅潮させている。
そして一歩踏み込んだ。その直後に足元から音が鳴る。それは鮮明だった。ぐちゃりという、不快極まりない音。
彩と加奈、二人が眼下に視線を落とすのは同時だった。彩の靴の底――
うあちゃあっ……。という小さい言葉が漏れる加奈。軽く首を左右に振る。目をしばたたいていた。対するに彩は蒼白。一瞬にて血の気が遠退いていく。目がきょどっている。
記憶に残る帰り道――
柔らかな陽射しと暖かな風の吹き抜ける、あの日の午後。
この時に何気なく加奈の呟いていた言葉。これは相当後になって思い出す事になる。
「あれ? ねぇ、お姉ちゃん? トカゲの目の色って赤……真っ赤だったっけ?」
完全に聞き流していた加奈の言葉。この時はまだ――
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