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「坊主、俺は戦地に赴く。」
それから何度かの眠りの先で。
竜吉さんは僕に、こう言った。
ここ数回の夢の中で、竜吉さんは静江さん、今の僕のおばあちゃんを紹介してくれた。
僕の知っているおばあちゃんと同じで、優しく穏やかで、おじいちゃんの少し後ろを歩くような、そんな人だった。
驚いたのは、おばあちゃんの若いころは、ものすごく綺麗だったっていうこと。
「赤紙が、来たんですね……。」
そんな『静江さん』は、悲しげな表情で竜吉さんに言った。
「あぁ。戦地より勝って戻れば、私の人生にも箔が付く。そうすれば静江、お前に惨めな思いなどさせることはない。幸せに生きられるんだ!」
戦地に赴く人は、他の人から見れば『勇者』。勝って帰ってくれば『英雄』になれるのだ。
英雄の結婚とあらば皆に祝福されるだろう。
しかし、戦地に赴かない市民の結婚に対して、この時代の人に良く思われないのは道理。
『こんな時世に結婚なんて』
そう思われてしまうことは明白なのである。
「戦地に行かなくても良いではないですか!戦争が終わってから、ゆっくり祝言あげて……それでは幸せにはなれないのですか!?」
静江さんの、少し大きな声。
「それでも……男は行かなければならないのだ。大丈夫。俺は必ず勝って帰ってくるから。」
静江さんを抱きしめ、しっかり言葉に表す竜吉さん。
この時、日本は敗色濃厚となっていて、『新たな作戦』が実行されようとしていた……。
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