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告白
「吉月君、今まで誰にも話した事はないんだが、君にだけは、私の秘密を打ち明けたい。老人の戯言だと思ってもらっても構わないから、聞いてくれないだろうか。」
柴田さんとは数年前にSNSで知り合い、小説の話で意気投合した事がきっかけで、私は彼専属の家政夫(かせいふ)となった。彼はお金持ちだが車椅子生活者で家族もなく、大きな家に一人で住んでいた。白髪の老人だが、床屋が出張で切りに来てくれるので、いつも清潔な感じを与える人だ。若い頃の写真を見せてもらった事があるが、ハンサムな人だったようだ。
「ええ、もちろん。」
私が彼の隣のソファーにゆったりと身を沈めると、彼は部屋の中央のシャンデリアを見ながら話し始めた。
「もう、六十年も経ったんだなあ。今でこそ、こんなだだっ広い家に住んでいるがね、二十歳の頃は貧乏で、んでもって、小説家を目指してたりしたものだから、食う物にも困って、友人の家を渡り歩いて飯を食わせてもらうなんて事もしょっちゅうあった。」
彼はここで一呼吸置いた。楽しそうに話していたが、細めた目を掌に向け、そしてまた、太陽でも見るかのように眩しそうにシャンデリアに視線を移した。
「生涯でただ一人、好きな人がいた。由紀子っていうんだが、図書館で知り合ってね、ほら、図書館ってお金かからないから。時々話をしてたら、彼女も本の虫だった事もあって、時々私の汚い部屋にも遊びに来てくれるようになってね。で、ある日、前の夜に短編小説の原稿を書き終えていたので、嬉しくて、彼女に読んでくれって、言ったんだ。」
彼は俯き、そして急に目を涙で潤ませた。
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