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第一章
束の間、俺と猫型宇宙人は無言のままお互いに睨み合った。と、突然奴は猫らしい素早い身のこなしでベッドの上に駆け上ったかと思うと、次の瞬間、どこから取り出したのか、前足で何やら銃のようなものを器用に挟んで銃口をこちらに向けた。
「抵抗すればお前の命はにゃいぞ。」言葉を失いながらも、俺は脳味噌をフル回転させて状況を整理しようとした。発端は、昨晩、雨に打たれて衰弱し切っていた(ように見えた)猫を保護した事にある。
詳しいことは全部すっ飛ばして、どうやら俺が猫だと思い込んでいた動物は、猫に擬態していた侵略タイプの宇宙人だったらしい。そんな俺の沈黙を、猫型宇宙人は服従のサインと見て取ったらしい。「命を救って貰ったことには感謝している。このまま黙って俺に従うなら、地球征服達成の折には、高官に取り立ててやっても良いぞ。」
「一つ…心からのアドバイスをしたいのだが。」
「良かろう。にゃんだ?」
「お前…さっきカラスに襲われて無かったか?」
そう、偉そうな事を吹いているが、ほんの少し前まで、俺はベランダで散々カラスにつつき廻されているこいつの姿を見ている。いくら武器を持っているからと言って、こいつが外の環境下で生き残って行けるとは到底思えない。俺はここぞと畳み掛けた。「それに、地球には防衛隊が居るぞ。」
「ふん、防衛隊だと?あんなもの、我々の敵ではない。」そう言いながら、声が微妙に震えているのを、俺は聞き逃さなかった。説得が上手く行くかも知れない。淡い期待を抱きかけたのだが、次に猫型宇宙人が発した言葉がそれを粉微塵に打ち砕いてくれた。
「にゃらば、ここでお前を消去し、この場を我々の侵略活動拠点とするまでだ。」そう言い放つと、猫型宇宙人は前足で、やや体格からすると大き過ぎる、と思われる銃の持ち手を挟んだまま、引き金に指を…。
ガシャン。
あ、落とした。
慌てて拾い上げて、もう一度何とか指を…
…ガッシャン。
今度は後ろ足で銃を挟んで、と言うところで俺は手を伸ばし、あっさりと銃を奪い取ると、今度は相手に銃口を向けた。もちろん、引き金に指を掛け、いつでも引けるようにして。
猫型宇宙人は黙って素直に両手を上げたのだった。
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