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「…………」
思い出すと体の奥で何かが膨らんできそうで、慌てて頭から昨夜の記憶を振り払う。
そういえば、あの女の人に会うためじゃないのなら、どうしてわざわざ北海道へ行って一泊二日だったんだろう。そういうスケジュールを立てていた。と言ってたけど、普通、そんな無茶な日程にしないよね? ……まさか、あの夜景を見ながら僕に告白するためだけに……とか?
自惚れた考えにまた身体がカーッと熱くなる。
そんなわけないでしょ! 宗一郎さんが起きたら聞いてみよう。
「シズ」
「あ、はい」
うっすら目を開けた宗一郎さんが膝掛けの中で手をモゾモゾと動かした。
「ん」
「はい」
僕は膝掛けの中に手を入れ、宗一郎さんの手をキュッと握る。宗一郎さんも強く握り返してくれた。
飛行機の窓から見えたのは海のように広がる青い雲の上、ポッカリ浮かんだお月様。
「わぁ、宗一郎さん。月がとても綺麗ですよ」
「うむ……」
見れば宗一郎さんはまた目を閉じてる。
夢の中へ戻ってしまったらしい。
「ふふ」
繋いだ手から伝わってくる気持ち。
幸せすぎて怖いって、あの時は思った。でもそうじゃなかった。これから僕たちは新しいスタートを切るんだ。先になにが待ち受けているかなんて誰にも分からない。
でも、ひとつだけ決めた。
僕は宗一郎さんの手を離さない。
今は想像できないけど、喧嘩したって、意見が食い違ったって、腹が立つことがあったって、宗一郎さんをずっと信じていくよ。一人前になれるまでへこたれない。歯を食いしばってついてくんだから。
「うん!」
一人頷きそっと、膝掛けの中の宗一郎さんの手を握り直した。
完
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