Prologue

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「人魚の涙が真珠になるのは知っているだろう?」  周りの動揺を意に介する様子もなく、男は歌うように続けた。 「それが"女神の愛し子(グレイサー)"だとご覧の通り。一応涙石(ラルム)と名付けてみたものの、何より絶対数が少ないから全然浸透しないんだよね。特徴は主の感情によって生まれる色が変わること。青は……そうだね、悲しみの青だ」  そう言って、いたわるような顔を俺に向けた。  抱きかかえられたことで否応なしに至近距離で見ることとなった男の顔は、こんな状況ですら見惚れてしまいそうなほどに恐ろしく整っていた。薄い唇と目鼻立ちの高さは、やはり帝都の人種の特徴だ。権力の象徴たる青い瞳は吸い込まれそうで、それを彩る睫毛も緩やかに曲線を描く髪も混じりのない純金のように輝いている。目深に被られた悪趣味な帽子すら、顔を隠して余計な諍いを避ける目的なのかもしれないと思い始めそうになるくらいに。  言っていることは服装に違わず意味不明なのだが。 「おま、あ、あなたは、一体……」 「っあ?おいラドン!テメェ何あのガキ離してんだよ!」 「っな、は!?いや、離した覚えはない!」 「じゃあなんで横取りされてんだよ!?」  呆然と立ち尽くしていた男達もようやく状況に理解が追いついたらしい。そう言えば確かに、いつからか痛むのは打たれた頬だけで、気付けば背中の圧迫感は消えていた。抱き上げられたのはその後だ。  いつからこの男はいた?  この男は何をした?
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