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清潔感のある小さな部屋。
中心にはベッドが据えられており、射し込む陽射しは春の陽気で、横たわる人間を優しく照らしていた。
「あなたは本当に不思議な人だった」
子守唄のような声だった。
「出会いがまずあれでしょ。第一印象は胡散臭さしかなかったわ。顔が良いと何でも好意的に受け止められがちだけど、それにあぐらをかかないでね」
「何?こんな時までお説教かい?」
「そのくせ勘違いしそうになる素振りを見せるんだから、若い頃はそれが本当につらかった」
「それは初耳だね」
「知ってたくせに」
ここで女性はひと息ついた。
いくらでも喋り続けていられたのも今は昔。一度に話すことはもう苦しいらしい。
「……あれから、たくさんのことがあった。悲しいことも、痛いことも、なくなる訳じゃなかった。でも、私、私ね、」
「ちゃんと聞いてる。ゆっくりでいい」
「私、色んな光を見れたわ、たくさんのことがあった分、たくさんの色に輝く光を。嬉しい時は黄色、恋しいときはピンク、嫉妬したら緑、幸せな時が透明なのは、ちょっとだけ拍子抜けしたけど」
「君は泣き虫だったからねぇ……ああ、ほらまた」
日陰から闇のような男が現れる。
とめどなく涙の伝う頬を、優しく撫ぜた。
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