第一章 女神の愛し子

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「……何か、あったのか?」  とりあえずメイド達の目につかぬよう挨拶も手短に自室に招き入れ、めっきり棚の肥やしになっていた来客用(とは名ばかりの実質兄姉専用)のティーカップに、最近のお気に入りである発酵茶を注ぎそれぞれの前に供すると、フォレスはさっそく話を切り出した。  普段優しげな微笑みをたたえるその顔が、沈痛な色に染まる兄姉に、嫌な予感が胸をかすめる。 「そうだね。でもまずは、最近顔を出せなくて本当にすまなかった。寂しい思いをさせただろう」  しかし、最初に兄ロムルスの口から出たのは謝罪だった。その横で姉のソミュアも申し訳なさそうにごめんなさいと言葉をこぼした。  この二人の兄姉は、父ランドルトと第一夫人メリルの間に生まれた生粋のきょうだいだ。こうして並ぶとその表情がよく似ているのを再認識させられる。父譲りの金髪はフォレスと同じだが、奥方からの遺伝の菫の瞳と柔らかい目尻が印象的で、それが今は後悔の念に揺れている。  既に父の右腕として国政を補佐する兄と、国を離れられない父兄に代わり各地の慰問に奔走する姉。何もできない自分と違って、人類のあまねく安寧な生活のためにその身を捧げる敬愛する二人にそんな顔をさせていると思うと、むしろ自分が悪者のような気がして慌ててフォレスも口を挟んだ。 「謝るなよ。別に、元々兄上達が忙しいのは理解してる……とうとう結婚したのかな、とは思ったけど」  言っておいて、最後のほうはかなり小さな声になっていた。これでは拗ねていると思われかねない。ただこの重い空気を吹き飛ばそうと、冗談のつもりだったのだ。二人にはもう十分すぎるほどの優しさをもらったから、会えなかった半年程度、どうってことないのだから。  一瞬時が止まり、兄のため息が響いた。それはフォレスに対してのものか、それとも、今から起こる事態に関してか。
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