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「オイオイ、いきなり横っ面張り倒して死んだらどーすんだよ。今までの時間無駄にする気か」
真上からの声は呆れたようにそう言った。
「っるせーな!そういうお前こそしっかり背中踏み潰しといて説得力ねーぞ」
ムキになって反論するこいつがなるほど、短気そうで手が早いのも頷ける。
「こんくらいで死にゃしませんって」
遅れてきた足音と共にいくらか若い声が会話に加わる。
砕けてはいるが言葉遣いも目下特有のそれだ。同年代かもしれない。今の立場は雲泥の差だが。
「逃げられないように骨の一二本折っとくか」
最後の声はそう言うなり、何の迷いもなく俺の足を掴み上げた。囃すように口笛を吹く短気な男と、良案だと持ち上げる目下の男。
その必要はないとリーダー格らしい頭上の男が止めていなければ、すぐにでも実行されていただろう。
そうして気付けば俺は四人の男に囲まれていた。
何とか目線だけでも上に向けると、それぞれ造形は全然違うのに、濁った八つの目だけが同じように一人地面に這いつくばる俺を見ていた。
「ぁ、あ………」
先程までの追手とはまた違う顔ぶれだった。一体どれほどの数の大人がこんな子供一人捕まえるのに駆り出されているのか。それほどまでの価値がこの宝石にはあるのか。取引を手短に終わらせるために買い叩かれているのを承知で手放してきたが、本来なら数ヶ月どころか軽く年単位の生活資金になったのではないか。
――それならば、こんな掃き溜めもっとはやく飛び出したのに。
「おっスゲーぞ。あのデブが欲しがってた宝石まだこんなに持ってるぜ」
殴られた衝撃と踏みつけられた背中で思うように動かせない身体では、全身を這い回る手に抵抗することも腰帯に潜ませていた麻袋が奪われる一連の横行も黙って受け入れることしかできず、ちっぽけな命を懸けて隠してきた宝石は、いとも簡単に男たちの手に落ちた。
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