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その宝石の数だけ。
涙を流さねば越えられない夜があったのだ。
「しかし見たことねぇ石だな。創世時代の遺産か?」
「青い宝石自体はよくあるが光の当たり具合でここまで濃淡が変わるのか」
「これもしかして中に水入ってないっすか?」
「100、いや、200はつきそうだな」
「500はつくよ」
そんな己が涙の結晶を、よく知りもしない奴らに無遠慮に暴かれ、視姦され、好き勝手に値踏みされていると思うと、殴られて腫れた頬とは違う熱で顔が燃えるほど熱くなった。
かつてないほどの怒りと、屈辱だ。
同時に、慣れ親しんだ涙腺の緩む気配を感じた。どうやら、何も悲しみだけが涙が出る理由ではないらしい。顔が上げられない。人の前で、ましてやこんな奴らの前で泣きたくなどないのに。
「おい」
唇を噛んで衝動に堪えていると、思い出したように短気な男がこちらに声を掛けてきた。
「これ、どこで手に入れた」
予想していた通りの問いだった。
しかしその答えを俺は持ち合わせていない。泣かないように必死で、口を開くことさえできない。
これでは、また、殴られる―――
「それはね、女神の祝福の一つだよ」
ふわり、と身体の浮く感覚に合わせて。
それは、つい先程にも聞いた、穏やかな声だった。
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