第二章 マルバ王国

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 年を取ると涙もろくなると言うが、勇仁はうつむき、眼がしらを押さえている。 「勇仁……」  しんみりする勇仁のそばに行こうとして一歩踏み出したとたん、阿梨は見事にドレスの裾につまづいた。 「長!」  とっさに勇駿は手を差し伸ばし、転びそうになる阿梨を受け止める。髪に飾った花の甘い香りがふわりと漂い、彼の胸が高鳴った。 「……だからこんな格好は嫌なのだ」  いまいましげなぼやきが、耳にすべりこむ。その口調はまぎれもなくいつもの阿梨で、勇駿を安心させる。 「王女殿下、もう少し上品にお歩きくださいませ。それにしてもお美しいですわ! きっとセルト王子もお喜びになられるでしょう」  場の微妙な空気にはおかまいなしに、ルキアの浮き浮きした声音が響く。 「何だってあの王子を喜ばせねばならんのだ。わたしは着せ替え人形ではないぞ……」  女官長には聞こえないよう、阿梨は恨みがましくつぶやいた。
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