144人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
年を取ると涙もろくなると言うが、勇仁はうつむき、眼がしらを押さえている。
「勇仁……」
しんみりする勇仁のそばに行こうとして一歩踏み出したとたん、阿梨は見事にドレスの裾につまづいた。
「長!」
とっさに勇駿は手を差し伸ばし、転びそうになる阿梨を受け止める。髪に飾った花の甘い香りがふわりと漂い、彼の胸が高鳴った。
「……だからこんな格好は嫌なのだ」
いまいましげなぼやきが、耳にすべりこむ。その口調はまぎれもなくいつもの阿梨で、勇駿を安心させる。
「王女殿下、もう少し上品にお歩きくださいませ。それにしてもお美しいですわ! きっとセルト王子もお喜びになられるでしょう」
場の微妙な空気にはおかまいなしに、ルキアの浮き浮きした声音が響く。
「何だってあの王子を喜ばせねばならんのだ。わたしは着せ替え人形ではないぞ……」
女官長には聞こえないよう、阿梨は恨みがましくつぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!