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 私は沢村さんをみて頷いた。 「中島海渡君と付き合いはじめてもらって、そっから、遥に、二股をかけてもらいたいんやけど」 「はあ?」  つい、大きな声が出た。  沢村さんが顔の横で両手を広げて、私をなだめた。 「わかっとる、わかっとる、遥は『二股無理系』やろ」  まったく、どんな系統だ。 「ええねん、欲しいものが全部手にはいるなんて幻想は、抱いてへんから」  言う気がないならないと言えばいい。私はまたそっぽを向いた。 「少しは俺になれてきた?」  もう、緊張はしていない。  沢村さんは私の足元に落ちているネクタイを手に取った。すっかり変形してしまっている。 「もう、使えないじゃないですか」  似合うかどうか見たかった。 「これは、遥を縛る用に置いておくで」  薄らいでいた不安がまた戻る。 「写真、消してください……」 「下着が見えとるだけやんか。たいした写真ちゃうやん。顔も半分隠れとるし」  私をよく知っている人にだって、私だとわからないかもしれない。  だけど、私には自分だとわかる。誰かに気づかれるかもしれないと思うだけでこわい。 「お願いです。消してください」  沢村さんが私の顎に触れた。目を細める。切なげな表情をする。  私は惹き付けられ、鼓動がはやくなっていく。 「信じさせてくれたらええんやで、あんなもん、いらんと思えるくらいまで」  私は息苦しくて、目を固くつぶった。  繰り返す呼吸が、遮られた。
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