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 リビングに戻る。改めて、白いグランドピアノに驚く。  素でない沢村さんなら、弾きこなしそうにもみえる。指も長いからそれは素敵な光景だろう。 「ピアノ弾けるんですか?」  沢村さんをみる。 「弾けへんで」  似合わなくても弾けるから置いてあるのかと思っていた。 「もったいない!」  姿も美しいけれど、グランドピアノは音が全然違う。置いておくだけなんて、楽器がかわいそうだ。 「あれは、母親の形見……の……レプリカ?」  沢村さんの言葉に、私の気分は反転する。 「そのもんは取り戻せへんかったから、よう似たやつを買ってん」  何か事情があるようだ。お母さんの形見なら、それは置いておきたいだろう。 ピアノにそっと近づいていく。大きな本体を支える細い足に繊細な細工が施されている。ピアノ教室で習っていただけの腕前では、弾くことを許されない雰囲気だ。 「それを眺めてな、絶対に、あの女みたいにならへんように、自分を戒めてんねや」  そう言った沢村さんの声が、やけに穏やかで、私は振り向くこともできずにその場に立ち尽くした。
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