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「うん、千尋ちゃん、ほんまありがとな」
細谷さんが手をあげた。
沢村さんとはもう少し話したかったけれど、細谷さんが苦手だ。
私もその場を離れようと「失礼します」とお辞儀をした。
「遥ちゃんは待って」
細谷さんに腕をつかまれた。
「原田君、遥ちゃんに食べ物取ってきたって」
原田さんは敬礼してから、その場を離れた。
「駿は、飲み物な」
沢村さんは頷いた。
「甘口と辛口とどちらがいいですか?」
話しかけられて、ときめいてしまった。
「甘口で」
細谷さんが、沢村さんの肩をたたいて耳打ちした。沢村さんが頷く。
細谷さんと二人になった。
「遥ちゃん、今日は会えてよかったよ」
いきなり背中に触られた。社内なら「セクハラです」が通じるけれど、どうにもならない。
眼鏡をかけた女性が近づいてきて、細谷さんに話しかけた。
「遥ちゃん、挨拶あるから行ってくるけど、ここで待っといてや」
細谷さんがいなくなったので、ほっとはしたが、この場から離れられそうになくなった。
会場を見回すと、人が増えていた。ウエイターが数人、トレーにのせたビールを配っていた。
人だかりの間から、両手にグラスを持った沢村さんが現れた。
こちらに向かってくる。歩く姿まで颯爽としている。
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