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「あの人、挨拶か」
私の前に立ってそう言った。
私にグラスを差し出した。受け取ろうとして、手をとめた。
左手の薬指にリングをしている。
ひとまず、グラスを受け取りお礼を言う。うつむいて、ため息をつく。
今すぐ帰りたくなった。
交流会の開始時間になり、簡単な挨拶があった。
近くにいたので、沢村さんと乾杯をした。微笑んで、暗い気持ちを隠す。
沢村さんの選んでくれたカクテルに口をつける。
驚いて顔を見る。
沢村さんは目を細めた。
「適当に、酔ったふりをしといてください。飲み物は毎回私が取りにいきますよ」
私は、頷いた。
原田さんが戻ってきた。
「いろいろありすぎて、迷ってもうた」
お皿の上にごちゃごちゃと食べ物がのっていた。
ローストビーフとキャビアとチーズが数種類、エビチリ、生ハムメロン……盛り付けかたでこうも不味そうに見えるとは。
「原田さん、箸か何かありませんでしたか?」
沢村さんが訊くと「ほんまやなあ。手ではあかんな」と言った。
沢村さんにお皿を渡して戻っていった。
「テーブル近くに移動しましょう」
そう言われたが「ここに居るように言われてるんです」と返した。
「大丈夫ですよ。あのテーブルがすいてます」
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