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「そうそう、強めのカクテルを注文してある設定なのでそのつもりで」
沢村さんを見上げた。
「探したで!」
原田さんが戻ってきた。フォークを渡されたけれど食欲が失せていた。
一応お礼を言う。
「えっと……君は、銀行の人なんやね。せっかくやし名刺交換しとこ」
二人と名刺交換をした。
沢村さんの会社は、銀行の近くだ。喜んだのもつかの間、リングのことを思い出す。
「今日は、友達に誘われて来たんやろ?」
頷いた。
「はあ、まあ……なんちゅうか……」
原田さんが言葉を濁す。
「細谷さんが戻るまではお相手しますので」
沢村さんが微笑んだ。
私は今日、細谷さんの接待で終わりそうな気がしてきた。ほかの人と話す機会はもてそうにない。千尋は就活をしているのだろうか。全く見かけない。
しばらくすると、細谷さんが戻ってきた。
「こんなとこにいてたんや。挨拶にまわっとって。遥ちゃん、お待たせ」
待っていなかったのに、そう言われた。
「飲み足りないんとちゃう?」
沢村さんが「取ってきます」と言った。行ってしまう。
「飲みやすくて美味しいカクテルでした」
私は、手のひらで頬を押さえた。
「あんま、顔に出ないんやな」
「そうですか?」
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