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銀行員には、驚くほど出会いがない。だから『婚活』なのかと思った。
「まだ、婚活は考えてないんやけど」
二十六歳、必死になるには早い気がしていた。自然ななりゆきに任せたい。
「婚活やないよ。あくまで、異業種との交流や」
「異業種って?」
「いろいろ…弁護士や会計士もいてるし、パティシエもいてるし、保険会社の人もいてるかな」
私は少し興味を持った。
「集まって、何するん?」
「何って、食事しながらお話をして、人脈をひろげるって感じやで」
私は首をかしげた。人脈をひろげても、千尋にメリットがあるとは思えない。私達は融資担当でも渉外担当でもない。ただの窓口担当だ。
「私さ、転職する気やねん」
千尋が、笑った。
質問しようとしたとき、ビールとサラダが届いた。
私はなんとなく言葉をのみこんだ。サラダに箸をのばすと「乾杯しよ」と言われた。思わず「なんで?」と言った。
「現金がみつかったお祝い」
頷いてグラスを持ちあげた。一口だけ飲む。泡が唇についた。
「交流会には、いろんな会社の社長さんも来はるんよ」
訊かなくても、千尋から話し始めた。
「今日みたいなことがあると、もう、本当に辞めたなる」
千尋が軽くため息をつく。
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