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「窓口って、減点主義やろ。誰かがミスをしたら、口に出さなくたってその人を責めてるやん」  相づちをうった。私にも不満はある。だが、千尋のように辞めたいと思ったことはない。細かな決まりごとは多いけれど、目の前のことをきちきちと片付けていけばいい。ごくたまに、客から言いがかりはつけられる。そうなると上司がかわってくれる。面白くはないが無難な仕事だ。  婚活には踏み込めないものの、結婚願望は強いほうだ。なんとなく銀行員という職業は、相手の両親に受けが良い気がしていた。  お好み焼きが運ばれてきた。鉄板にたれたわずかな水滴が一瞬にして蒸発する。私は唾液をのみこんだ。香りを思い切り吸う。たれをかけた途端に、鉄板が騒がしくなる。しばらく話は中断された。  鉄板の火を止め、二杯目のビールを頼んだ後で、千尋が言った。 「業種もばらばらやけど、年齢層も幅広い人が来はるし、視野は広がると思うんやんか。銀行の中だけみとったら、偏るよ」  千尋の言葉は、魅力的にきこえた。
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