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 中島君の言葉に驚いて、固まってしまう。 「昼間は道が混むから、夜通し走った方が楽なんやんか」 「あっ、そうか、そうか。うん、うちは大丈夫。放任だから」  二十六にもなって、放任も何もあったもんじゃない。母親は、男の気配がないことを心配しているくらいだ。姉は父親譲りで、漢字の研究に情熱を注いでいる。一週間家に帰ってこないと思ったら、ふらっと買い物にでかけて着もしない服を買い込んだりする。研究中は入浴どころか着替えもしない変人なので、母の『初孫を抱く』期待はすべて私にかかっている。  外泊には逆に喜びそうだ。  父は、書斎に籠もっているので、いなくてもきっと気づかない。  私にしたって、相手が中島君なら、なんの心配もいらない。 「行けそうなん?」 「うん」 「じゃあ、金曜の夜から出ような」  私は「わかった」と返した。 「約束やで」  念を押された。  湖西道路を走る。辺りはすっかり田舎の風景になっていた。田んぼや畑がひろがり、ところどころ民家が建つ。道の脇に、トレーラーハウスが置いてあった。  中島君の方をみると、琵琶湖がある。湖面が輝いてキレイだ。小型の船が走っている。向こう岸は見えなかった。 「窓開けて走ろうか?」  中島君に訊かれる。確かに今は心地よい気温だ。  ウインドウを下げると、一気に風が入り込んで、髪の毛が顔にかかる。くすぐったい。  指で髪を掻き分けて耳にかけた。  窓の外に顔を向ける。風は少し冷たい。 「もう少し走ったら風車があるみたいなんや」 「風車? へえ、楽しみやわ」  たまにはのどかな風景をみるのもいいと思った。  銀行の営業時間以外は、それほど、時間に追われていない。  それでも、屋内に閉じこもっている時間が長い。こんな風に視界いっぱいに自然があるのはいい。
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