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私は顔をあげることができなかった。中島君と一緒にいて楽しかった。だけど、それは、気の合う男友達という感覚に近かった。
「か、帰る……」
ドアを開けた。
「おやすみ」
中島君の方を見ることはできなかった。
「おやすみなさい」
車をおりた。そのまま家まで走って帰った。
なかなか動悸がおさまらない。
ひとまず顔を洗った。静かに階段をあがっていく。すぐに自分の部屋に入る。
電気はつけなかった。そのままベッドに倒れ込む。バッグからスマートフォンを取り出し時間をみようとした。
LINEの通知が光る。
中島君かと思ったけれど、沢村さんからだった。
『明日の午後、あいていませんか?』
おさまりかけていた動悸がまた、はやくなる。
会いたかった。
『特に決まった用事はありません』
入力した。何も悪いことをしている訳ではない。それなのに、すぐには送信できなかった。
沢村さんとは、会社の近くの書店で待ち合わせた。
店内のあちこちに椅子が置いてあって、気になる本を試し読みできるようになっている。
書店についたことをLINEで知らせると、書籍コーナーにいると返ってきた。
エスカレーターで二階にあがった。
書棚の前に立つ人を一通り見たけれどいなかった。
見える範囲で椅子も確認する。初老の男性と真面目そうな女性と大学生くらいの男性がいた。
とにかく、店内を一回りしようと歩き始めた。
誰かに後ろ手を引かれた。驚いて、変な声をだしてしまう。静かな店内に響く。
「しー、俺やから」
私の腕を取ったのは、大学生だと思っていた相手だった。目深にキャップをかぶっているし、眼鏡もしていないから、沢村さんだとわからなかった。
「やっと来た思ったら、スルーされるし焦るわ」
私は戸惑い過ぎて言葉が出てこなかった。
ダメージジーンズをはき、Vネックの黒い長袖Tシャツを着ている。おまけにボディバッグを斜めがけしている。
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