2+1

23/50
1124人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
 私は顔をあげることができなかった。中島君と一緒にいて楽しかった。だけど、それは、気の合う男友達という感覚に近かった。 「か、帰る……」  ドアを開けた。 「おやすみ」  中島君の方を見ることはできなかった。 「おやすみなさい」  車をおりた。そのまま家まで走って帰った。  なかなか動悸がおさまらない。  ひとまず顔を洗った。静かに階段をあがっていく。すぐに自分の部屋に入る。  電気はつけなかった。そのままベッドに倒れ込む。バッグからスマートフォンを取り出し時間をみようとした。  LINEの通知が光る。  中島君かと思ったけれど、沢村さんからだった。 『明日の午後、あいていませんか?』  おさまりかけていた動悸がまた、はやくなる。  会いたかった。 『特に決まった用事はありません』   入力した。何も悪いことをしている訳ではない。それなのに、すぐには送信できなかった。  沢村さんとは、会社の近くの書店で待ち合わせた。  店内のあちこちに椅子が置いてあって、気になる本を試し読みできるようになっている。  書店についたことをLINEで知らせると、書籍コーナーにいると返ってきた。  エスカレーターで二階にあがった。  書棚の前に立つ人を一通り見たけれどいなかった。  見える範囲で椅子も確認する。初老の男性と真面目そうな女性と大学生くらいの男性がいた。  とにかく、店内を一回りしようと歩き始めた。  誰かに後ろ手を引かれた。驚いて、変な声をだしてしまう。静かな店内に響く。 「しー、俺やから」  私の腕を取ったのは、大学生だと思っていた相手だった。目深にキャップをかぶっているし、眼鏡もしていないから、沢村さんだとわからなかった。 「やっと来た思ったら、スルーされるし焦るわ」   私は戸惑い過ぎて言葉が出てこなかった。  ダメージジーンズをはき、Vネックの黒い長袖Tシャツを着ている。おまけにボディバッグを斜めがけしている。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!