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とにかく、戸惑い過ぎてまともに思考回路が機能していない。
フタを開けて、蛇口から水を注ぐ。手に重みがかかってくる。
「二人しかおらへんのに、そんなに沸かさんでもええやろ……」
沢村さんがため息をついた。
「銀行員って、もっと、機械みたいに何でも処理できんのかと思っとったのに」
どういう偏見だと思う。口にはできない。
「自分、かわいい以外になんか取り柄あるん?」
沢村さんにかわいいと言われて、全然嬉しく思えないなんて、昨日までの私は想像もしなかった。
「今日は最初やし許すけど、次からは手際よくやってや」
顰め面で腕組みまでして言う。
こんなに急かされたら、かえってもたついてしまう。
「少し、一人にしてもらえますか」
「せやな、見てるとイライラすっし、リビングにいとくわ」
うちは母がコーヒーに拘っているから、実は自分でいれたことがなかった。適当に豆をついで、お湯を注いだ。いい感じにぽたぽたと落ちてくる。カップ二杯分のメモリまでたまった。カップに移し替える。トレーに載せて運んだ。
沢村さんの前に一杯置いた。カップの中を見ている。表情が険しい。持ち手に指をかけた。口をつけたあと、すごい顔で睨まれた。
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