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「コーヒーもまともに煎れられへんのか」
沢村さんはトレーにカップを戻すと、キッチンに運んでいった。私は、その場に立ったまま、動けない。
昨夜からあんなに会うのを楽しみにしていたのに、今すぐ帰りたかった。
しばらくすると、二人分コーヒーを煎れて戻ってきた。
「次までに、練習しといてや」
私の前にカップとソーサーを置いてくれた。
言葉は乱暴なのに、ちょっとした仕草に、交流会や営業所で会ったときの沢村さんが垣間見える。
「すみません」
「ありがとうって言いやって、こないだ言ったやろ」
「はい、ありがとうございます」
私は俯いた。「いただきます」と言って、カップを手に取った。同じ道具、同じ豆のはずなのに、さっき私が煎れたのと、香りから違う。
「そんなん余所余所しい態度はなしやで、せっかく友達になってんから」
どうやらこれは、友達に対する態度らしい。
確かに、昔の貴族とかではないのだから、交流会での立ち居振る舞いのまま、友達づきあいというのはないかもしれない。それにしても落差がありすぎる。
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