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「いつまでも、猫かぶっとったってしゃあないやろ」
沢村さんが言う。
「はあ……」
別に猫をかぶっているつもりはない。まだ知り合ったばかりなのに、ある程度の距離を保つのが普通だと思う。
「まあ、せやけど、まだ正式に友達になるかは、決めてへんしな……、ちょっとこのまま待っといてや」
沢村さんは立ちあがってリビングを出て行った。すぐに戻ってくる。
手にお札の束を持っている。
「そこらへんのもん、どけて」
言われた通り、プリンやコーヒーカップを端に避けた。
沢村さんが、テーブルにお札を置いた。百万円分だろう。多分、九枚は伸ばしたまま重ね、十枚目で挟んである。それが十セット、輪ゴムでとめてる。
「これ数えて」
私は頷いた。
「縦読み、横読みの二回読みですか?」
「縦、横?」
「一枚一枚捲って数えるのが縦で、扇みたいに広げるのが横です」
沢村さんが「ああ」と頷いた。
「両方、みせて」
私は、まず、折り曲げてあるお札を抜いていき、伸ばして重ねた。机の上でそろえる。
順番は決まっている。常に縦からだ。他の券種が混ざっていないか確認を兼ねている。
私は、左手の中指と薬指の間にお札の束を挟んだ。
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