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束を軽くおりまげた。右手の親指で一枚目を少し下に押し下げる。できた隙間に薬指を差し込んだ。
「数えますよ」
沢村さんは頷いた。
私は、右手の親指と薬指を同じリズムで動かし続ける。最後の一枚だけわざと音を立てる。ちょうど百枚あった。
続けて横読みに入る。
左の親指と中指で束をつまむ。右手をそえて手首を回す。鳥の羽ばたきのような音を出しながら、札束は広がっていく。
四枚ずつ数えていく。二十五回カウントすれば百枚だ。横読みの方が圧倒的にはやい。
私は、扇状に広げた束を元に戻した。揃えてテーブルの上に置く。
顔をあげる。
沢村さんが私の顔をじっとみている。
「ほんまに、はやいな……」
札勘がはやくできたからって、そんなに役立つことはない。今はほとんど機械が数える。活躍できるのは、お正月のお賽銭数えにかり出されるときだけだ。
「他が少々とろくっても、そんだけはよ数えられるんなら、なんの文句もないわ」
沢村さんが、嬉しそうに笑った。
「まあ、ひとまずお近づきのしるしに、俺の分のおやつもあげるし、遠慮せんと食べてや」
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