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私はプリンだけでいいと、断った。
「食べながら、昨日の話聞かせてや」
スプーンを渡される。
「昨日?」
中島君と出掛けた時のことだろうか。
「遊びに行ったんやろ。中島海渡君と」
それなら私も、沢村さんと中島君が話したことが気になる。
「琵琶湖を一周しましたよ」
まず質問に答えた。
「へえ、おもろそうやな」
沢村さんは嬉しそうにしている。確かに楽しかった。
「で、告白はされへんかったんか?」
私は口を開けたまま、固まった。
「けしかけといたんやけどな。焦ってまうように」
沢村さんが首をかしげた。
「無理チュウくらいはしそうな感じにみえたんやけどな……」
沢村さんが、私の顔を覗き込んだ。
顔が近い上に、昨夜のことを思い出して、顔が熱くなってきた。
沢村さんがニヤリと笑う。
「どうしてそんなことを……」
「その方が、おもろいやんか」
私はため息をついた。沢村さんがこんな人だなんて、思わなかった。
「二重人格なんですか?」
沢村さんが一瞬真顔になった。
「いつもこんなやで。最初に会ったんが仕事中やったからそう思うだけやろ?」
それにしても違いすぎる。
「郷に入っては郷に従えって言うやんか。それと一緒やん。塾の先生しとったときは、はつらつとしとったし、ホストんときは髪を金色に染めてサブイボがたつような台詞をはいたし、今は眼鏡をかけて信頼感を演出しとる」
私はなにも言い返せなかった。私だって、程度こそ違えど、仕事中は銀行員の顔をする。
私が一目惚れした相手は、幻だったのかと思うと悲しくなってきた。お父さんに好きな人ができたって言ったのに。
「なんで泣くんや? 」
自分は関係なさそうな言い方をするから、私は腹が立ってきた。
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