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 それでも、細谷さんに比べればまだ苦手ではない。急かされるのは苦手だけれど、普段通りにすれば、そこまで言われないと思う。 「金庫のお金なんですけどね。自分で数えてるんでしょう。わざわざ数え直さなくてもいいんじゃないですか?」 「定期的に数えな不安やんか。段々手に負えなくなってきて困っててん」  やはり理解できない。 「お札は、万券だけですか? 横読みだけでいいなら、今日、数えられます。時間は、まあまあかかりますけど……」  横読みなら手の負担もそれほどない。  沢村さんが私の手をとった。「ほんまに!」無邪気な顔で喜んでいる。身を乗り出しているから顔が近い。大きな目だ。鼓動がはやくなった。この感じは、まずい。  沢村さんに持たれている手で、押し返した。 「数えますから、折り曲げてあるお札を抜いて、揃えるのを手伝ってください」  私は、100万円数えるのに、縦読み横読みであわせて50秒をきる。そのうち横読みに使うのは10秒前後。一千万円を数えるのに、揃えてまとめる動作まであわせて、4分弱でできたとする。ペースを保てても、全部を数えるのに40分以上かかる。  金庫の中身を一度に出すと散らかるので、一千万円ずつ数えることにした。  沢村さんの寝室で二人きり、鍵までかけて閉じ込められているのに、していることには色気の欠片もない。  黙々と数え続けた。沢村さんは、黙ってみている。  横読みだけなので、順調に作業は続く。余裕だと思っていたけれど、甘かった。
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