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「いきなり同棲しようって意味ですか?」
それははっきりと断る必要がある。
同棲でなく、『付き合う』ならどうだろう。仕事中の沢村さんしか知らなければ、迷わなかった。
「同棲? なんかそれ、やらしい響きやな。同居か共同生活やろ。この場合」
私は沢村さんを押し退けた。立ち上がると、スカートの上にのっていたお札が落ちて、床に散らばった。
慌ててしゃがんだ。お金を集める。
「ほら、やっぱり遥は信用できる」
私は沢村さんをみた。
「遥は金に目が眩まへん。その上、蔑ろにもせえへん」
真剣な眼差しを向けられる。眼鏡をかけていなくたって、沢村さんはつい信じたくなる顔をしている。
「俺は、金以外、なんにも信じられへんと思っとったけど、遥のことは信じられる」
私は息を吸い込んで、それきりしばらく呼吸を忘れた。
なんだろう、言ってることはめちゃくちゃなのに、ほんの一瞬、沢村さんの根本というか、核に触れた気がして、私は、強く惹きつけられた。
もっともっと沢村さんを知りたいと感じてしまった。
ゆっくり息を吐き出す。
「それでも一緒に暮らすのは……」
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